なぜ、私はペンを握るのが怖いのか

はじめまして、管理人のりゅうぞうです。

2025年現在、私は38歳。妻と子供一人と共に暮らしています。 そして私には、自閉スペクトラム症(ASD)限局性学習症(SLD)という2つの特性があります。

突然ですが、みなさんは「ペンを持って紙に字を書く」という行為に、恐怖を感じたことはありますか?

多くの人にとって、それは呼吸をするように当たり前のことかもしれません。でも、私にとっての「書くこと」は、長年、暗闇の中で手探りをするような苦痛そのものでした。

会議中に上司が言ったことをメモしようとしても、ミミズが這ったような線にしかならない。 後で見返しても、自分で書いたはずの文字が読めない。 計算をしようと数字を書いても、桁がずれていき、思考がフリーズする。

「なんでみんなと同じようにできないんだろう」 「努力が足りないからだ」

そう自分を責め続けていた私が、自分の障がい(SLD:書字障害・算数障害など)に気づいたのは27歳の時でした。診断がついた時、ショックというよりも「やっと理由がわかった」と、肩の荷が降りたのを覚えています。

あれから10年以上。 今の私は、ある「相棒」のおかげで、仕事も勉強も、そして創作活動さえも楽しめるようになりました。

その相棒こそが、iPadとApple Pencilです。

今日は、ガジェット好きのレビューとしてではなく、「書字障害を持つ私にとって、iPadはいかにして『失われた機能』を補う義手となったか」というお話をさせてください。

もし、あなたやあなたのご家族が、「書くこと」や「学ぶこと」に困難を感じているなら。この記事が、少しでも「普通」を手に入れるためのヒントになれば嬉しいです。


1. 「便利」ではなく「不可欠」な存在として

世間では、iPadは「動画が見やすい」「絵が描ける」「スマートな仕事道具」として紹介されることが多いですよね。

でも、私たちのような書字障害(SLD)や、手先の不器用さを抱える発達障害当事者にとって、iPadの意味合いは全く違います。

iPadは「文房具」ではありません。「義手」です。

目が悪い人がメガネをかけるように、足が不自由な人が義足をつけるように。 私にとってiPadとApple Pencilは、脳と指先の連携エラーを補正し、私が私らしくあるために不可欠な身体の一部なのです。

紙とペンを使っていた頃、私は常に「紙の制約」と戦っていました。 書き間違えたら消しゴムで消さなきゃいけない(そして紙が汚れる)。 書く場所を間違えたら、矢印で引っ張ってぐちゃぐちゃになる。 そもそも、まっすぐ書けない。

このストレスは、思考のリソースを奪います。「内容を理解すること」よりも「文字を書くこと」に脳の90%を使ってしまっていたのです。これでは、仕事や勉強がうまくいくはずがありません。

iPadを手に入れてから、私の世界は変わりました。 「書く」という行為のハードルが、劇的に下がったのです。


2. 私を救った「GoodNotes」という魔法

私がiPadを「義手」にするために愛用しているのが、定番ですが「GoodNotes(現在はGoodNotes 6)」というアプリです。

なぜ、このアプリがSLDの私を救ってくれたのか。 具体的な「救済ポイント」を3つ紹介します。

① 「投げ縄ツール」が脳の空間認知を助ける

私が紙のノートで一番苦労していたのが、「書き始める場所」と「文字の大きさ」のコントロールです。 書き始めたら行が足りなくなったり、計算式の途中でスペースがなくなったり。

GoodNotesの「投げ縄ツール」を使えば、書いた文字を後から自由に移動・縮小・拡大できます。 「あ、場所が足りない」と思ったら、ヒョイッと動かすだけ。 この「後から修正できる安心感」が、書くことへの恐怖を消してくれました。

② 汚い字でも検索できる「手書き検索機能」

私の字は、正直に言って汚いです。急いで書けば書くほど、解読不能になります。 紙のノートでは、どこに何を書いたか一生見つけられませんでした。

しかし、GoodNotesはすごいんです。私のあんなに汚い字でも、AIが認識してテキストデータとして検索可能にしてくれます。 「あの会議のメモ、どこだっけ?」 検索窓にキーワードを入れるだけで、一瞬でハイライトされる。 この機能のおかげで、私は「メモを取る意味」を初めて実感できました。

③ 録音機能が「聞き漏らし」の不安を消す

ASDの特性もある私は、耳からの情報処理(聴覚的ワーキングメモリー)もあまり得意ではありません。 必死に字を書いていると、耳がシャットダウンして話が入ってこないのです。

最新のGoodNotesには、録音機能があります。 メモを取りながら録音しておけば、「ここ、何て言ってたっけ?」という部分の文字をタップするだけで、その瞬間の音声が再生されます。 これによって、「一字一句書き留めなきゃ」というプレッシャーから解放され、相手の話に集中できるようになりました。


3. 書字障害の私が実践する「iPad勉強法・仕事術」

ここでは、私が実際に社会人として働きながら、あるいは興味のある分野(投資や創作など)を学ぶ際に実践している、具体的なテクニックをご紹介します。

■ 「書かない」という選択肢を持つ(スクリブル機能)

Apple Pencilには「スクリブル」という機能があります。手書きで入力枠に文字を書くと、自動でテキスト(フォント)に変換してくれる機能です。

自分の字を見るのが嫌なら、無理に見る必要はありません。 ラフに書いても、iPadが綺麗な明朝体やゴシック体に整えてくれる。 メールの返信も、チャットの返信も、キーボードを打つのが苦手ならペンで書けばいい。 「自分の字が汚くて恥ずかしい」というコンプレックスを、テクノロジーがカバーしてくれます。

■ 資料はすべてスキャン、または撮影

紙の資料を渡された時、その上に書き込むのは至難の業です。行間が狭すぎたり、紙質が悪かったり。 私は、配布された資料は即座にiPadのカメラでスキャンし、GoodNotesに取り込みます。

そして、ピンチアウト(指で拡大)して、書き込みたい部分を画面いっぱいに大きくします。 こうすれば、細かい文字を書く必要はありません。大きく書いて、後で縮小すればいいのです。 「枠からはみ出す」という概念がなくなります。

■ 計算はアプリに任せる

SLDの特性で計算が極端に苦手な私は、資産管理(今は株式投資が資産の9割を占めています)をする際も、絶対に自分の暗算を信用しません。 iPadのSplit View(画面分割)機能を使い、左にノート、右に計算機アプリやExcelを表示させます。

「自分で計算しない」と決めること。 それは甘えではなく、ミスを防ぎ、社会生活を円滑に送るための立派なリスク管理です。


4. 27歳まで「暗闇」にいた私から、あなたへ

ここまでiPadの利便性を語ってきましたが、最後に少しだけ、心の話をさせてください。

私は27歳で診断を受けるまで、本当に苦しかった。 「普通」になりたくて、「普通」のフリをしていました。 字が汚いのを隠すために、わざと崩して書いているフリをしたり。 計算ができないのがバレないように、必死で隠したり。

でも、診断を受けて、そしてiPadというツールに出会って、気づいたことがあります。

「できないこと」は、無理に克服しなくていい。 「道具」に頼ることは、ズルじゃない。

目が悪い人がメガネをかけて「ズルい」と言われますか?言われませんよね。 私たちにとってのiPadも、それと同じです。

もし、今この記事を読んでいるあなたが、あるいはあなたのお子さんが、字を書くことに苦しんでいるなら。 どうか、「もっと綺麗に書く練習をしなさい」と言わないであげてください。 「努力すれば書けるようになる」と追い詰めないであげてください。

その代わりに、iPadのようなテクノロジーを手渡してみてください。 「これを使えば、君の考えを自由に表現できるよ」と。

私がそうであったように、ツール一つで人生の色が変わることがあります。 「書く」という苦痛から解放された時、その先にあったのは、学ぶ楽しさと、表現する喜びでした。


5. 最後に:あなたは一人じゃない

私の資産は現在3400万円ほどになりましたが、これは計算が苦手な私が、Excelやアプリを駆使して、コツコツと管理してきた結果です。 小説を書いたり、歌詞を作ったりする趣味も、音声入力やiPadのメモ機能がなければ続いていなかったでしょう。

不器用でも、計算ができなくても、字が書けなくても。 自分に合った「義手」を見つければ、私たちはどこへだって行けます。

このブログでは、これからも私のような「不器用な人間」が、この社会でちょっとだけ楽に、そして楽しく生きていくための工夫やマインドを発信していきます。

「自分はダメな人間だ」なんて、思わないでください。 あなたは一人じゃありません。 同じ悩みを持つ私が、ここにいます。

もし、iPadの導入に迷っている方がいれば、まずは店頭でApple Pencilを触ってみてください。 そのペン先が、新しい世界の扉を開く鍵になるかもしれません。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。 また、次の記事でお会いしましょう。

りゅうぞう