「できない」を認めて楽になる ── 苦手を隠し続けた20年からの解放

あなたは「できない自分」を隠していませんか?
「また計算ミスしてる」「なんでこんな簡単なこともできないの?」
子どもの頃から何度言われたか分かりません。九九を覚えるのに同級生の3倍かかり、お釣りの計算は今でも苦手。レジで焦って財布の中身を全部出してしまうこともあります。
私はASD(自閉スペクトラム症)とSLD(限局性学習症)を持っています。特に計算と書字に困難があり、手書きで数字を書くと自分でも読めないほどです。
でも今、私の資産は約3,400万円。その90%は株式投資です。
「え、計算できないのに投資?」と思いましたよね。私も最初はそう思っていました。でも、「できない」を認めたからこそ、ここまで来れたのです。
この記事では、障害をどう周囲に伝えてきたか、そして「できない自分」を受け入れることで人生がどう変わったかをお話しします。
結論を先に言います。「できない」を認めることは、負けではありません。自分に合った戦い方を見つけるための、最初の一歩です。
第1章:隠し続けた日々 ── 「普通のふり」という地獄
子ども時代:「頑張りが足りない」という呪い
小学校の算数の時間は、毎日が戦場でした。
周りの子がスラスラ解いていく計算ドリル。私は必死に指を折り、何度も消しゴムを使い、それでも間違える。先生には「もっと集中しなさい」と言われ、親には「努力が足りない」と言われました。
誰も「脳の特性」という可能性を考えてくれなかった。
だから私は、ある結論に達しました。
「自分は頭が悪いダメな人間なんだ」
この思い込みは、大人になっても消えませんでした。
社会人時代:バレないように生きる技術
就職してからも、「できない自分」を必死に隠しました。
- 電卓を打つフリをしながら、実はスマホの計算機を使う
- 手書きの書類は「字が汚くてすみません」と笑ってごまかす
- 暗算を求められたら「ちょっと確認させてください」と時間を稼ぐ
毎日が「バレないかな」という恐怖との戦い。
飲み会の割り勘が一番怖かった。「じゃあ一人3,200円ね」と言われた瞬間、頭が真っ白になる。財布を開く手が震える。「細かいのない」と言い訳して、とりあえず5,000円を出す。
こんな生活を、20年以上続けてきました。
第2章:転機 ── 「できない」と言えた日
診断という名の「許可証」
27歳を過ぎて、ようやく発達障害の診断を受けました。
正直に言うと、ホッとしました。
「頑張りが足りない」のではなく、「脳の処理方法が違う」だけだった。努力不足ではなく、特性だった。
診断書は、私にとって「できなくてもいい」という許可証でした。
初めてのカミングアウト:職場にて
診断を受けてから半年後、直属の上司に打ち明けました。
正直、めちゃくちゃ怖かった。「使えないやつ」と思われるんじゃないか。評価が下がるんじゃないか。
でも、言葉を選びながら伝えました。
「実は、計算と手書きに障害があります。でも、ツールを使えば問題なく仕事ができます。もし手書きの作業があれば、PCで対応させてもらえると助かります」
上司の反応は、予想外でした。
「そうだったんだ。言ってくれてありがとう。困ったことがあったら遠慮なく言ってね」
拍子抜けするほど、あっさり受け入れられた。
もちろん、すべての人がこうとは限りません。でも、「言わなければ分からない」こともあるんです。
第3章:カミングアウトの技術 ── 伝え方で反応は変わる
伝える相手を選ぶ:全員に言う必要はない
ここで重要なポイントをお伝えします。
カミングアウトは、「全員にオープンにする」ことではありません。
私が障害を伝えているのは、以下の人だけです。
- 職場の直属の上司(業務調整のため)
- 人事部門の担当者(配慮事項の記録のため)
- 親しい友人数名(理解してほしいから)
- 家族(日常生活のサポートのため)
逆に、取引先や初対面の人には言いません。必要がないからです。
伝え方の3つのコツ
カミングアウトで失敗しないために、私が実践している方法を紹介します。
① 「困っていること」と「解決策」をセットで伝える
❌「私は計算ができません」 ⭕「計算に困難がありますが、電卓やExcelを使えば正確に作業できます」
できないことだけ言うと、相手は「じゃあどうすればいいの?」と困惑します。 解決策まで提示することで、相手の不安を減らせます。
② 相手のメリットを添える
❌「配慮してください」 ⭕「ツールを使うことで、ミスなく早く仕上げられます」
お願いするだけでなく、相手にとってのプラス面も伝える。 これで「面倒くさい人」ではなく「合理的な人」と思ってもらえます。
③ タイミングを選ぶ
忙しい時や、大勢の前では言わない。落ち着いた環境で、1対1で伝える。
「ちょっとお時間いいですか?」と前置きして、相手に心の準備をさせることも大切です。
第4章:「できない」を武器に変えた投資術
計算できないからこそ、たどり着いた方法
さて、冒頭で触れた「3,400万円の資産」の話に戻ります。
計算が苦手な私が、なぜ投資で成果を出せているのか?
答えは「自分で計算しない仕組み」を作ったからです。
具体的には、以下のツールとテクノロジーを活用しています。
活用しているツール一覧
| ツール名 | 用途 | 価格 |
|---|---|---|
| マネーフォワードME | 資産の自動集計 | 無料(有料版は月500円) |
| 楽天証券のアプリ | 株価・損益の自動表示 | 無料 |
| Googleスプレッドシート | 配当金の記録 | 無料 |
| 電卓アプリ(音声入力対応) | 日常の計算 | 無料 |
ポイントは「自分で計算しない」こと。
マネーフォワードMEは、銀行口座や証券口座と連携して、資産総額を自動で計算してくれます。私は数字を見るだけ。入力も計算も不要です。
インデックス投資という選択
個別株の分析は、私には向いていません。PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)の計算なんて、考えただけで頭が痛くなります。
だから私は、インデックス投資を選びました。
【用語解説】インデックス投資とは? 日経平均やS&P500などの「指数」に連動する投資信託を買う方法。個別企業の分析が不要で、「市場全体の成長」に賭ける投資スタイル。
やることは単純です。
- 毎月、決まった金額を自動で積み立てる
- 相場が上がっても下がっても、何もしない
- 20年後に受け取る
計算不要。分析不要。感情も不要。
「できない」を認めたからこそ、「できなくても成果が出る方法」を探せたのです。
【コラム】中級者向け:発達障害と「行動経済学」の意外な相性
ここで少しマニアックな話をします。
実は、発達障害の特性は、投資において「有利」に働く場合があります。
行動経済学では、人間が非合理的な判断をする原因として「感情」が挙げられます。株価が下がるとパニックになって売ってしまう。上がるとハイになって買いすぎる。
しかし、ASDの特性である「感情の波が小さい」「ルーティンを好む」という傾向は、投資において冷静な判断を助けます。
2020年のコロナショックで株価が暴落した時、私は何もしませんでした。怖くなかったわけではありません。でも、「毎月積み立てる」というルールを変える理由がなかった。
結果として、暴落時に買い続けたことで、その後の回復局面で大きなリターンを得られました。
「感情に左右されない」は、投資において最強のスキルかもしれません。
もちろん、これは私の場合であり、すべての発達障害者に当てはまるわけではありません。でも、「特性を弱点」としか見ない視点は、もったいないと思うのです。
第5章:「助けて」と言えるようになるまで
「迷惑をかけたくない」という呪縛
カミングアウトよりも難しかったこと。それは「助けを求める」ことでした。
「自分でなんとかしなきゃ」「迷惑をかけたくない」
この気持ちが、長い間私を縛っていました。
でも、ある時気づいたんです。
「助けて」と言わないことは、相手に「あなたには頼りたくない」と言っているのと同じではないか?
人は、頼られると嬉しいものです。誰かの役に立てることは、自己肯定感につながる。
「助けて」と言うことは、相手を信頼している証拠。そして、相手に「役に立てる機会」を与えることでもある。
そう考えたら、少し楽になりました。
「助けて」の練習方法
最初から大きなことを頼む必要はありません。小さなことから始めましょう。
初級編:
- 「この漢字、なんて読む?」
- 「ここまでの道、教えてもらえますか?」
中級編:
- 「この書類、代わりに書いてもらえると助かる」
- 「計算、確認してくれない?」
上級編:
- 「実は障害があって、〇〇が苦手なんです」
- 「定期的にサポートしてもらえると嬉しい」
「助けて」は筋トレと同じ。 少しずつ負荷を上げていけば、だんだん言えるようになります。
第6章:周囲の無理解への対処法
100%理解されることは、諦める
正直に言います。
すべての人に理解してもらうのは、無理です。
「計算できないのに投資?ウソでしょ」と言われたこともあります。「発達障害って言い訳じゃない?」と言われたこともあります。
最初は傷つきました。でも今は、こう考えています。
「理解してくれない人」は、「今はまだ理解する準備ができていない人」。
その人を変えようとしても、消耗するだけ。それよりも、理解してくれる人との関係を大切にする方が、ずっと建設的です。
無理解な発言への返し方
とはいえ、傷つく言葉を言われることはあります。そんな時のために、返答テンプレートを用意しておくと楽です。
「言い訳でしょ?」と言われたら: 「そう見えるかもしれないね。でも診断も受けてて、自分なりに対処してるんだ」
「そんな障害聞いたことない」と言われたら: 「珍しいよね。でも最近は認知度上がってきてるみたいだよ」
「頑張ればできるでしょ」と言われたら: 「そうだといいんだけどね。脳の構造の問題だから、頑張り方を工夫する方向で対応してるんだ」
ポイントは「否定しない」「言い訳しない」「淡々と伝える」。
感情的になると、相手も構えてしまいます。穏やかに、事実を伝える。それだけでいいんです。
そして、理解してくれない人に時間を使うより、理解してくれる人と過ごす時間を増やす。 これが私なりの「気持ちの整理術」です。
第7章:心の支えになったもの ── おすすめの本と映画
受容までの道のりで救われた作品たち
「できない自分」を受け入れるまでの道のりは、正直しんどかった。そんな時に支えになった本と映画を紹介します。
【本】『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』(借金玉 著)
当事者が書いた、リアルな仕事術の本。「普通のやり方」ができない人のための、具体的な工夫が詰まっています。
特に刺さった一節: 「発達障害者は『普通の土俵』で戦ってはいけない。自分だけの土俵を作れ」
この言葉で、「できないことを克服する」のではなく「できることで勝負する」という発想に切り替えられました。
【本】『よくわかる大人のADHD』(司馬理英子 著)
ADHDの入門書ですが、ASDやSLDとの併存についても触れられています。図解が多く、当事者だけでなく家族にも読みやすい。
「あなたの困りごとには、ちゃんと理由がある」 と教えてくれる一冊です。
【映画】『ギフテッド』(2017年・アメリカ)
数学の天才少女と、彼女を育てる叔父の物語。障害の映画ではありませんが、「普通と違うこと」をどう受け止めるかがテーマになっています。
観終わった後、涙が止まりませんでした。「違っていてもいいんだ」と思えた映画です。
【映画】『梅切らぬバカ』(2021年・日本)
自閉症の息子と母親の日常を描いた日本映画。派手な展開はないけれど、「ただ、そこにいる」ことの尊さを静かに伝えてくれます。
当事者の家族にも、ぜひ観てほしい作品です。
第8章:テクノロジーで「できない」を補う最新事情
2024年〜2025年の注目ツール
ここまで心の話をしてきましたが、実際に「できない」を補うツールも紹介します。テクノロジーの進化は、本当にありがたい。
① 音声入力の進化
私は手書きが苦手なので、文章は基本的に音声入力で書いています。
- Googleドキュメントの音声入力(無料):精度が高く、句読点も自動挿入
- Whisper(OpenAI):長文の文字起こしに最適。無料で使えるアプリも多数
- iPhone/Androidの標準音声入力:日常のメモに便利
2024年以降、音声認識の精度は飛躍的に向上しました。 以前は誤変換だらけでしたが、今はほぼ修正不要なレベルです。
② 計算を代行するAI
ChatGPTやGeminiなどの生成AIは、計算も得意です。
「15,800円を4人で割り勘したらいくら?」と聞けば、「一人あたり3,950円です」と即答してくれる。
もう暗算で恥をかく時代は終わりました。
③ スマートホーム化で「手順」を減らす
ASDの特性として、「マルチタスクが苦手」という人も多いはず。私もそうです。
だから、家の中は徹底的に自動化しています。
- SwitchBot(スイッチボット):照明やエアコンを声で操作
- Amazon Echo / Google Nest:タイマー設定、リマインダー、天気確認
- スマートロック:鍵の閉め忘れ防止
価格帯の目安:
- SwitchBot ハブミニ:約5,000円
- スマートプラグ:約1,500円
- スマートロック:約10,000円〜15,000円
初期投資は必要ですが、「あれやったっけ?」という不安が激減するので、精神的なコスパは最高です。
デメリットも正直に
テクノロジーに頼ることのデメリットも、正直にお伝えします。
- 初期設定が面倒:得意な人に手伝ってもらうのがベスト
- Wi-Fi環境が必要:ネットが不安定だと動作しない
- 依存しすぎると、使えない環境で困る:完全に頼りきらず、アナログの代替手段も持っておく
ツールは「杖」のようなもの。 歩けないわけじゃないけど、あると楽になる。そのくらいの距離感がちょうどいいと思っています。
【コラム】海外の事例:ニューロダイバーシティという考え方
少しだけ、海外の話もしておきます。
欧米では、「ニューロダイバーシティ(神経多様性)」という考え方が広まっています。
これは、発達障害を「障害」ではなく**「脳の多様性」として捉える視点。自閉症やADHD、ディスレクシア(読字障害)などを、「直すべき欠陥」ではなく「人類の多様性の一部」**と見なします。
実際、MicrosoftやSAPなどのグローバル企業は、発達障害者を積極的に採用しています。 「普通の人」には見えないパターンを発見したり、長時間の集中作業が得意だったりする特性が、IT分野で重宝されているのです。
日本ではまだ馴染みの薄い考え方ですが、少しずつ広まってきています。
「できない」は「価値がない」ではない。 この視点を持てると、自分への見方も変わってきます。
まとめ:「できない」を認めた先にある自由
長くなりましたが、最後にまとめます。
この記事で伝えたかったこと
① 「できない」を認めることは、負けではない 自分に合った戦い方を見つけるための、最初の一歩。
② カミングアウトは「全員に」ではなく「必要な人に」 伝える相手を選び、解決策とセットで伝える。
③ テクノロジーを味方につける 計算も、書字も、ツールが代わりにやってくれる時代。
④ 「助けて」は相手への信頼の証 迷惑ではなく、相手に「役に立てる機会」を与えること。
⑤ 理解してくれない人より、理解してくれる人を大切に 100%の理解は諦める。でも、0%でもない。
最後に、あなたへ
もしあなたが今、「できない自分」を隠して生きているなら。
それ、めちゃくちゃしんどくないですか?
私は20年以上、隠し続けて生きてきました。バレないように、笑ってごまかして、陰で必死にリカバリーして。
でも、「できない」を認めた瞬間、世界が変わりました。
「できないこと」に使っていたエネルギーを、「できること」に集中できるようになった。助けを求められるようになった。自分を許せるようになった。
計算ができない私が、3,400万円の資産を築けたのは、「できない」を認めたからです。
あなたの「できない」は、恥ずかしいことではありません。
隠さなくていい。認めていい。
そして、「できない」を認めた先には、あなただけの自由が待っています。







