【実体験】ASD×SLD診断を受けて見つけた、私の「できない」を「できる」に変える暮らし方

「普通」という呪縛から解放された日
27歳で自閉スペクトラム症(ASD)と限局性学習症(SLD)の診断を受けたとき、私の中で何かが音を立てて崩れました。それは「普通でいなければならない」という、長年背負ってきた重い鎧でした。
診断前の私は、毎日が戦いでした。書類を書くたびに文字が踊り、計算が必要な場面では頭が真っ白になる。周囲からは「努力が足りない」「もっと真面目にやれば」と言われ、自分でも「なぜみんなと同じようにできないんだろう」と責め続けていました。
でも今、私は断言できます。診断は終わりではなく、本当の意味での「自分らしい暮らし」のスタート地点でした。
この記事では、診断後に私が実践してきた具体的な工夫や使い始めたツール、そして何より「できないこと」を受け入れながら「できること」を増やしていった過程をお伝えします。同じように悩んでいる方、リハビリ職として当事者を支援したい方に、少しでもヒントになれば嬉しいです。
診断までの長い道のり:「頑張れば何とかなる」の限界
子ども時代から続いた違和感
小学生の頃から、私は「ちょっと変わった子」でした。興味のあることには驚異的な集中力を発揮する一方で、書き取りや算数のテストでは壊滅的な点数。先生からは「ふざけているのか」と怒られ、親は「この子はやればできるのに」と悩んでいました。
中学・高校では、ノートを取ることが苦痛でした。黒板の文字を写すだけで精一杯で、内容を理解する余裕はありません。テストでは簡単な計算ミスを連発し、「もったいない」と言われ続けました。でも当時の私には、それが「ミス」ではなく「できない」ことだという認識がありませんでした。
社会人になって露呈した困難
就職してから、困難はさらに顕在化しました。
- 手書きの書類作成で何度も書き直し、定時までに終わらない
- 経費精算の計算が合わず、経理部から呼び出される
- 電話対応中にメモが取れず、重要な内容を忘れてしまう
- マルチタスクが求められる場面でパニックになる
「社会人なんだから、これくらいできて当然」という空気の中で、私はどんどん追い詰められていきました。毎晩、布団の中で「明日また失敗したらどうしよう」と不安に押しつぶされそうになりながら眠りにつく日々。
診断を受けるまで
転機が訪れたのは、職場の産業医面談でした。疲労とストレスで体調を崩していた私に、産業医が「一度、発達障害の専門医を受診してみませんか」と提案してくれたのです。
正直、最初は抵抗がありました。「診断を受けたら『障がい者』になってしまう」という恐怖。でも同時に、「もしかしたら、長年の謎が解けるかもしれない」という希望もありました。
専門医での問診、各種検査(WAIS-IVという知能検査や、書字・計算の詳しい評価)を経て、2ヶ月後に結果が出ました。
「自閉スペクトラム症と限局性学習症(書字障害・算数障害)ですね」
その言葉を聞いた瞬間、涙が止まりませんでした。悔しさでも悲しさでもなく、「やっぱり、努力不足じゃなかったんだ」という安堵の涙でした。
診断後に始めた「暮らしの攻略法」
診断を受けてから、私は自分の特性と向き合い、「できないこと」を無理に克服するのではなく、「どうすればできるか」を考えるようになりました。ここからは、実際に効果があった具体的な工夫をご紹介します。

デジタルツールで「書けない」をカバーする
音声入力が私の右腕に
書字障害(ディスグラフィア)の私にとって、最大の味方は音声入力機能です。
使っているツール:
- Googleドキュメントの音声入力(無料)
- iPhone純正の音声入力
- Otter.ai(会議の文字起こし用・月額約1,500円〜)
具体的な使い方:
- 思いついたアイデアはすぐにスマホに話しかける
- 会議中は録音+Otter.aiで自動文字起こし
- 長文のメールや報告書はGoogleドキュメントで音声入力→後で整える
失敗談から学んだコツ: 最初、音声入力を使い始めたとき、「えーと」「あのー」といった言葉まで全部入力されて、後で編集が大変でした。今は、話す前に頭の中で一度整理してから話すようにしています。完璧な文章でなくていいので、キーワードと要点だけを話すのがポイントです。
OCRアプリで手書き書類をデータ化
どうしても手書きが必要な書類は、書いた後にスマホで撮影してデータ化しています。
- Microsoft Lens(無料):書類をスキャンしてPDF化
- Adobe Scan(無料):OCR機能で文字をテキストデータに変換
これで、後から内容を検索できるようになり、「あの書類どこに書いたっけ?」という問題も解決しました。
計算苦手を助けるテクノロジー活用術
スマホの計算機は常に手元に
算数障害(ディスカリキュリア)の私は、暗算がほぼできません。でも恥ずかしいことではないと気づいてからは、堂々と電卓を使っています。
私の計算サポートツール:
- iPhone純正計算機:買い物時の割引計算に
- Googleスプレッドシート:家計簿や支出管理(関数を使えば自動計算)
- レシート読み取りアプリ(マネーフォワード ME):支出を自動で分類・集計
生活での工夫例:
- スーパーで買い物中、カゴの中身の合計を計算機で随時チェック
- 支払いは可能な限りキャッシュレス(現金のやり取りで計算ミスが減る)
- 電車の乗り換えアプリで料金を確認(運賃計算が苦手)
スプレッドシートのテンプレート活用
家計簿は、最初から関数が組み込まれたテンプレートを使用しています。金額を入力するだけで、自動的に集計・グラフ化してくれるので、計算ミスの心配がありません。
Googleスプレッドシートのテンプレートギャラリーには、無料で使える家計簿テンプレートが豊富にあります。「月間予算管理」「費目別集計」などがすでに設定されているので、数式を理解できなくても使えるのが嬉しいポイントです。
ASD特性との向き合い方
感覚過敏への対策グッズ
ASDの特性として、私は聴覚過敏があります。人混みや騒がしい場所に行くと、すべての音が同じボリュームで聞こえてきて、疲労困憊してしまいます。
必携アイテム:
- ノイズキャンセリングイヤホン(Sony WF-1000XM5):約40,000円
- 外出時の必需品。電車や街中の雑音を軽減
- 音楽を流さなくても、ノイズキャンセリング機能だけで使える
- 耳栓(Loop Experience):約3,000円
- 会話は聞こえるけど、不快な高音をカット
- 職場で集中したいときに使用
100均で見つけた救世主: ダイソーで売っている「携帯用耳栓ケース」(110円)に、予備の耳栓を常に入れて持ち歩いています。突然の騒音に対応できるので安心です。
ルーティン化で安心を作る
ASDの特性として、予定外の出来事や変化に弱いという面があります。だから私は、できる限り日常をルーティン化しています。
朝のルーティン例:
- 6:30起床→洗面所へ(動線は毎日同じ)
- 6:40朝食(メニューは曜日で固定)
- 7:00薬を飲む(スマホのリマインダー設定)
- 7:10着替え(前夜に準備済み)
- 7:30出発
このルーティンをGoogleカレンダーにも登録し、毎朝通知が来るようにしています。「次に何をすればいいか」で悩む時間が減り、朝の支度がスムーズになりました。
視覚的な情報整理術
私は聴覚情報よりも視覚情報の方が理解しやすいタイプです。そのため、情報整理は「見える化」を徹底しています。
やっていること:
- ToDoリストはホワイトボードに書き出し、終わったら消す(達成感!)
- 予定はスマホカレンダー+紙のカレンダーの両方に記入(視界に入る場所に貼る)
- 冷蔵庫の中身を写真で撮影→買い物リストを作る
100均活用: ダイソーの「マグネット式ホワイトボード(A4サイズ)」(220円)を冷蔵庫に貼り、「今週買うもの」「今週やること」を書いています。完了したらすぐ消せるので、紙のメモより管理が楽です。
スマートホーム化で「うっかり」を防ぐ
声で操作できる快適さ
最近導入して大正解だったのが、スマートスピーカーとスマート家電です。
私が使っているもの:
- Amazon Echo Dot(第5世代):約7,980円
- スマート電球(Philips Hue):1個約1,500円〜
- スマートプラグ(TP-Link Tapo):1個約1,000円
できること:
- 「アレクサ、電気を消して」で照明オフ(消し忘れ防止)
- 「アレクサ、おやすみ」で寝室の電気を消して、リビングも消灯(一括管理)
- 外出先からスマホアプリで家電の状態を確認(「エアコン消したっけ?」の不安解消)
スマートプラグの使い方: 普通の家電(扇風機、加湿器など)をスマートプラグに挿すだけで、スマート家電化できます。工事不要で、賃貸でも使えるのが魅力です。
私は寝室の加湿器にスマートプラグをつけて、「アレクサ、加湿器オン」で操作しています。つけ忘れて乾燥で喉を痛めることがなくなりました。
タイマー機能で「やり忘れ」撃退
「◯分後にリマインドして」という機能も重宝しています。
使用例:
- 洗濯機を回したら「30分後にリマインド」→干し忘れ防止
- 料理中に「10分後にアラーム」→煮込み料理の火の消し忘れ防止
- 「20時に薬のリマインド」→服薬管理
スマホのタイマーより便利なのは、両手が塞がっていても声だけで設定できることです。料理中や洗い物中でも使えます。
【中級者向けコラム】支援技術(AT)とICFモデルの視点
リハビリ職の方や、もっと深く理解したい方向けに、少し専門的な話をします。
支援技術(Assistive Technology)とは
私が使っている音声入力やスマート家電は、専門用語で「支援技術(AT)」と呼ばれます。これは、障がいのある人の生活機能を向上させるための技術や機器の総称です。
ATの分類例:
- ローテクAT:拡大鏡、書見台、グリップ付きペンなど
- ハイテクAT:音声入力ソフト、スマート家電、読み上げソフトなど
近年、ATは急速に進化し、かつては高額だった支援機器が、スマホアプリや安価なガジェットで代用できるようになってきました。
ICFモデルで考える「できる」と「している」
WHO(世界保健機関)のICF(国際生活機能分類)というモデルでは、生活機能を「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3つの視点で捉えます。
私の例で言うと:
- 心身機能:書字障害、計算障害(できない部分)
- 活動:音声入力やATを使って文章を作成する、計算機を使って家計管理をする(工夫すればできる)
- 参加:仕事を続ける、社会生活を送る(環境調整で可能になる)
つまり、「心身機能」に困難があっても、適切な支援と環境があれば「活動」「参加」は可能になるのです。診断後の私は、まさにこのアプローチで生活を再構築してきました。
リハビリ職の方がクライアントを支援する際も、「できない部分」を訓練で克服させようとするだけでなく、「どんな支援や環境があれば、その人らしく活動・参加できるか」という視点が重要だと思います。
まとめ:「できない」は終わりじゃない。新しい「できる」の始まり
27歳で診断を受けてから約11年。今の私は、診断前よりもずっと楽に、そして自分らしく生きています。
もちろん、すべてがうまくいっているわけではありません。今でも書類に手書きで書かなければならない場面では緊張するし、計算が必要な場面では不安になります。でも以前と違うのは、「できない自分」を責めなくなったことです。
診断は、「障がい者」というレッテルではなく、「自分を理解し、適切な支援を選ぶための情報」でした。音声入力、計算機、スマート家電、そして理解ある周囲の人たち──これらのサポートがあれば、私は十分に社会で活動できます。
もしあなたが今、「なぜ自分はみんなと同じようにできないんだろう」と悩んでいるなら、それは決してあなたの努力不足ではありません。もしかしたら、私と同じように、自分に合った「攻略法」がまだ見つかっていないだけかもしれません。
診断を受けるかどうかは個人の選択ですが、自分の特性を知ることは、自分を責めることをやめる第一歩になります。そして適切な支援や工夫を知ることで、「できないこと」に縛られず、「できること」「得意なこと」に目を向けられるようになります。
この記事が、同じように悩む誰かの背中を、ほんの少しでも押せたら嬉しいです。
あなたは、あなたのままで十分です。必要なのは、あなたに合った「攻略法」を見つけることだけ。








