計算は苦手、でも資産は3400万。ASDとSLDの私が掴んだ「自由」な暮らし

「数字が読めないのに、ポートフォリオを組める」という逆説
「財務諸表が読めないなら、投資なんて無謀だ」
多くの投資本がそう警告します。実際、私もそう思っていました。ASD(自閉スペクトラム症)とSLD(限局性学習症)を抱える私にとって、数字の羅列は暗号にしか見えません。ROEやPERといった指標を見ても、その意味を理解するまでに時間がかかりすぎて、結局何も判断できない。手書きのメモは、翌日には判読不能になっています。
それでも今、私の資産は3400万円です。投資信託で約1400万円、米国個別株で2000万円。毎月11万8000円を9つの銘柄に機械的に分散し、米国個別株9銘柄を長期保有しています。
この記事でお伝えしたいのは、「計算ができなくても投資はできる」という単純な事実ではありません。むしろ、計算ができないからこそ辿り着いた、本質的な投資哲学についてです。数字に頼れない人間が、どのようにして投資判断の軸を見つけ、それを体系化していったのか。その思考のプロセスを共有します。
私の投資哲学:「理解できないものは持たない」という原則
なぜ9つの投資信託なのか
「分散しすぎではないか」と思われるかもしれません。確かに、多くの専門家は「全世界株式インデックス1本で十分」と言います。理論的にはその通りです。
しかし、私には私の論理があります。それは「市場リスクの分解と再構築」という考え方です。
投資のリターンは、様々な「要因(ファクター)」に分解できます。市場全体の動き(ベータ)、企業規模(サイズ)、財務の質(クオリティ)、割安性(バリュー)、モメンタム(勢い)…これらは相互に独立した収益源です。
私のポートフォリオは、この考え方に基づいて設計されています。
【市場ベータ層:46%】
- eMAXIS Slim 全世界株式(25,000円/21.2%):市場平均を最も低コストで確保
- GX USテック・トップ20(20,000円/16.9%):イノベーション領域への集中投資
この2つで、まず「市場に居続ける」という土台を作ります。全世界株式は文字通り世界中の株式市場を保有し、USテックは米国の技術革新の中心に資金を置く。この組み合わせが、私の投資の「重心」です。
【サイズファクター層:16.9%】
- EXE-i 全世界中小型株式(20,000円/16.9%)
大型株とは異なる成長曲線を描く中小型株を組み入れることで、ポートフォリオ全体の成長性を高めます。歴史的に、中小型株は大型株を上回るリターンを生み出してきました(サイズプレミアム)。ただし、ボラティリティも高い。だからこそ、全体の17%程度に抑えています。
【クオリティファクター層:22.9%】
- IS米国連続増配(15,000円/12.7%)
- SMT日本好配当(12,000円/10.2%)
財務が健全で、株主還元を継続できる企業群。これらは市場が荒れたときの「防波堤」になります。配当を出し続けられる企業は、本質的に収益力が高く、不況耐性を持っています。米国と日本に分けているのは、通貨分散の意味もあります。
【オルタナティブ層:21%】
- IS米総合債券ETF(13,000円/11.0%)
- SMT国内REIT厳選(6,000円/5.1%)
- ゴールド・ファンド(5,000円/4.2%)
- ビットコイン(2,000円/1.7%)
株式と相関の低い資産クラス。債券は金利リスクを、REITは不動産市場を、ゴールドは有事のリスクを、ビットコインは非中央集権的な価値保存を担います。
これらを合計すると、確かに9銘柄です。一見複雑に見えます。しかし、各銘柄には明確な「役割」があり、その役割は相互に重複していません。これが重要なのです。
なぜ米国個別株9銘柄なのか
個別株のポートフォリオを見て、「ハイテク偏重だ」と指摘する人もいるでしょう。その通りです。私の保有する7銘柄は、すべてテクノロジー関連企業です。
- NVIDIA:AI半導体のリーダー
- Astera Labs:データセンター接続技術
- Rubrik:クラウドデータ管理
- Reddit:ソーシャルプラットフォーム
- Applovin:モバイル広告技術
- On Holding:高機能スニーカー(非テック)
- Tempus AI:AIヘルスケア
- Lyft:ライドシェアプラットフォーム(非テック)
- UiPath:RPAソフトウェア
これは意図的な選択です。投資信託で「市場全体」「財務優良企業」「債券」「REIT」といった伝統的資産を押さえているからこそ、個別株では「信じるテーマ」に集中投資できるのです。
私が信じているテーマは、「計算機(コンピューター)が人間の知的作業を代替・拡張していく未来」です。これは私自身の体験に基づいています。計算ができない私が投資できているのは、まさにテクノロジーのおかげです。自動計算、自動記録、音声読み上げ、AI要約…これらがなければ、私は投資の世界に足を踏み入れることすらできませんでした。
だから私は、この未来に賭けています。財務諸表は読めなくても、「この技術が5年後、10年後の世界をどう変えるか」については、誰よりも深く考えています。
【コラム】中級者向け:ファクター投資の本質
「ファクター投資」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。ノーベル経済学賞を受賞したユージン・ファーマ教授らが確立した投資理論です。
簡単に言えば、株式のリターンは「市場全体の動き」だけでなく、「企業規模」「割安性」「収益性」「投資傾向」「モメンタム」といった複数の要因に分解できる、という考え方です。
従来の投資理論では「市場全体(ベータ)」だけが報酬の源泉とされていました。しかし、実証研究により、他にも体系的なリターンの源泉が存在することが明らかになりました。
私のポートフォリオは、この理論を実践しています:
- 市場ファクター:全世界株式、USテック
- サイズファクター:全世界中小型株式
- クオリティファクター:連続増配株、好配当株
- オルタナティブ:債券、REIT、ゴールド、暗号資産
各ファクターは、異なる経済環境で異なるパフォーマンスを示します。景気拡大期には中小型株が強く、景気後退期にはクオリティ株が下支えする。インフレ期にはゴールドとREITが、デフレ期には債券が機能する。
この「役割分担」こそが、9銘柄に分散する理由です。単なる分散ではなく、機能的分散なのです。
ただし、この理論を理解するのに、複雑な数式は不要です。重要なのは「なぜその資産を持つのか」という理由を明確にすることです。私は財務諸表を読めませんが、各資産の「役割」は理解しています。それで十分なのです。
ASD特性が投資設計で「強み」になった理由
パターン認識能力:カオスの中に秩序を見出す
ASDの特性の一つに、「パターンやシステムを見抜く能力」があります。一見バラバラに見える情報の中から、構造や法則性を発見する力です。
投資の世界は、膨大な情報のカオスです。毎日無数のニュースが流れ、株価は上下し、専門家の意見は食い違います。定型発達の人は、この情報の洪水の中で「直感」や「経験」で判断できるのかもしれません。
しかし私には、その直感がありません。だからこそ、システムを構築する必要がありました。
私の投資システムの核心は、「各資産の役割を定義し、その役割通りに機能しているかを定期的に検証する」というものです。
例えば:
- 全世界株式は「市場平均を確保する」役割 → 実際のリターンがMSCI ACWI指数と一致しているか確認
- 連続増配株は「暴落時の下支え」役割 → 2020年3月の下落率が市場全体より小さかったか検証
- ゴールドは「有事のヘッジ」役割 → 地政学リスク発生時に上昇したか確認
この検証作業は、数字の計算ではなく「グラフの形」で行います。Googleスプレッドシートで各資産のチャートを並べ、視覚的に比較するのです。数字は読めなくても、グラフの形は理解できます。
ルーティン構築能力:感情に左右されないシステム
ASDのもう一つの特性は、「ルーティンへの強いこだわり」です。一度決めた手順を、感情に左右されず淡々と実行できます。
私の投資ルーティン:
【毎月15日:自動積立日】
- 11万8000円が銀行口座から証券口座へ自動送金
- 各銘柄への配分も完全自動
- 私は何もしない(確認すらしない)
【毎月第1土曜日:資産確認日】
- 朝4時、コーヒーを淹れてからPCを開く
- マネーフォワードMEで総資産を確認(所要時間5分)
- 証券アプリでポートフォリオのバランスを確認(所要時間10分)
- Googleスプレッドシートに数字を入力(所要時間5分)
- 気づいたことをNotionに音声入力(所要時間10分)
【3ヶ月に1回:リバランス検討日】
- スプレッドシートが自動計算した「推奨売買」を確認
- 目標配分から5%以上ズレている資産があれば調整
- ズレが小さければ何もしない
【年に1回(12月最終週):年次レビュー】
- 1年間のリターンを各ファクター別に分析
- 想定通りに機能しなかった資産があれば、理由を考察
- 翌年の積立額・配分を決定
このルーティンを6年間、一度も崩していません。コロナショックの最中も、ウクライナ侵攻の直後も、市場が史上最高値を更新したときも、同じルーティンを繰り返しました。
多くの投資家が「今は買い時か」「そろそろ売るべきか」と悩む場面で、私は悩みません。なぜなら、ルーティンが決まっているからです。判断を必要としないシステムは、感情の介入を許しません。
特定分野への深い没入:テクノロジーという「わかる領域」
ASDの人間は、興味のある分野に異常なほど没入します。私の場合、それがテクノロジーでした。
個別株で保有する9社について、私は財務諸表を読んでいません。代わりに、以下を徹底的に研究しています:
- 製品の技術的な仕組み(YouTubeの解説動画を繰り返し視聴)
- 経営陣のインタビュー(音声で何度も聴く)
- ユーザーコミュニティの反応(Redditやフォーラムを読む)
- 競合との技術的差別化ポイント(技術ブログを読み漁る)
- 業界全体のトレンド(Gartnerのレポートを音声読み上げで聴く)
例えばNVIDIAについて。私はPER(株価収益率)は計算できませんが、CUDA(並列計算プラットフォーム)のエコシステムがどれだけ強固かは説明できます。なぜAIの学習にNVIDIAのGPUが不可欠なのか、なぜ競合がすぐには追いつけないのか、その技術的理由を理解しています。
Astera Labsについて。財務諸表は読めませんが、PCIe 5.0/6.0の帯域幅とレイテンシがデータセンターのボトルネック解消にどう貢献するかは理解しています。
この「技術的理解」が、私の投資判断の軸です。数字で判断できない代わりに、「この技術は5年後も必要とされるか」という問いに答えることで投資判断をしています。
実際の管理方法:テクノロジーで「できないこと」を補完する
ツール1:マネーフォワードME(有料版:月額500円)
すべての金融資産を一元管理。銀行口座、証券口座(複数)、クレジットカード、暗号資産取引所…すべてが自動連携されています。
なぜ有料版か? 無料版は連携できる口座数が10件までですが、私の場合:
- 銀行口座:3つ
- 証券口座:2つ(SBI証券、楽天証券)
- クレジットカード:4枚
- 暗号資産取引所:1つ
- 電子マネー:3つ(PayPay、Suica、楽天Edy)
合計13件。有料版が必須です。
活用方法
- 総資産の推移をグラフで確認(数字ではなく「形」で理解)
- カテゴリ別支出を円グラフで確認(視覚的に把握)
- 前月比・前年比を自動計算(手動計算は一切しない)
デメリット:
- たまに連携エラーが発生(月1~2回、再ログインで解決)
- 暗号資産の評価額がやや不正確(取引所によって価格差があるため)
- 個別株の詳細分析はできない(あくまで総資産管理用)
ツール2:Googleスプレッドシート「投資管理シート」
YouTubeの「投資系エンジニア」チャンネルを見ながら、3時間かけて作成したシートです。以下の機能があります:
【ポートフォリオ管理シート】
- 各資産の目標配分率と実際の配分率を入力
- 乖離率が自動計算される
- 「+5%以上」のセルが赤く、「-5%以上」のセルが青く自動ハイライト
- 視覚的にリバランスの必要性が分かる
【個別株管理シート】
- 各銘柄の保有株数と現在株価を入力(Yahoo Financeから自動取得)
- 取得単価と現在価格の差が自動計算
- 損益率がパーセンテージで表示
- 配当利回りも自動計算(年間配当金÷投資額)
【月次リターン記録シート】
- 毎月第1土曜日に、マネーフォワードの総資産額を1つ入力
- 前月比リターンが自動計算
- 年初来リターンが自動計算
- グラフが自動更新(折れ線グラフで推移を視覚化)
私が手動でやることは「数字を1つ入力するだけ」。計算はすべて自動です。
ツール3:Notion「投資日誌」
手書きは無理なので、すべて音声入力です。iPhoneのSiriを使い、以下を記録しています:
【毎月第1土曜日の記録】
- 今月の市場の雰囲気(ニュースで見聞きしたこと)
- ポートフォリオで気になった点
- 気持ちの変化(不安、安心、退屈など)
【気になったニュースの記録】
- 保有銘柄に関する重要ニュース
- 音声入力で要約を記録
- 自分の解釈や感想も音声で追記
【失敗と学びの記録】
- 判断ミスをしたとき(例:暴落時にパニックになりそうだった)
- その時どう対処したか
- 次回どうするか
この「言葉による記録」が、数字では捉えられない投資の学びを蓄積してくれます。
ツール4:YouTube音声再生(1.5倍速)
私の投資知識の9割以上は、YouTubeから得ています。通勤時間(往復2時間)、家事の時間(1時間)、入浴時間(30分)…すべて投資系YouTubeを流しています。
よく視聴するチャンネル
基礎知識:
- 両学長 リベラルアーツ大学
米国株・テック:
- Ark Invest(キャシー・ウッドの解説)
音声学習のコツ
- 1.5倍速で再生(通常速度だと集中力が切れる)
- 同じ動画を3回以上聴く(1回では理解できない)
- 重要な部分は巻き戻して繰り返し聴く
- スクリプトをNotion に音声入力でメモ
ツール5:証券アプリの自動通知機能
SBI証券アプリ
- 配当金入金通知(受け取るたびに少し嬉しい)
- 約定通知(積立が実行されたことの確認)
- 決算発表通知(保有銘柄の決算日を自動リマインド)
楽天証券「iSPEED」
- 個別株のニュース自動配信
- 株価が前日比±5%以上動いたときのアラート
- 配当金カレンダー(いつ配当がもらえるか一目瞭然)
Yahoo!ファイナンス
- ポートフォリオ登録した銘柄のリアルタイム株価
- 業界ニュースのプッシュ通知
これらの通知を活用することで、「見逃し」を防ぎます。自分で情報を取りに行く必要がありません。重要な情報が向こうからやってきます。
投資信託と個別株、それぞれの失敗と学び
失敗1:ビットコインの比率を高めすぎた時期
最初の設計では、ビットコインに月5,000円(約4%)を配分していました。「分散化された通貨の未来」に強く惹かれていたからです。
しかし2021年、ビットコインが暴騰しました。11月に最高値を記録し、私のポートフォリオに占めるビットコインの割合が15%まで膨らみました。
「このまま持ち続けるべきか?」と悩みました。ルール上はリバランスすべきでしたが、「まだ上がるかもしれない」という欲が出ました。
結果、リバランスを先延ばしにしました。そして2022年、ビットコインは70%下落しました。
学び:ルールは絶対。感情を入れない
目標配分から5%以上乖離したら、機械的にリバランスする。例外を作らない。この失敗以降、ビットコインの配分を1.7%に下げ、厳格にリバランスを実行しています。
失敗2:Lyft株の「ナンピン買い」
Lyftの株価が購入後に40%下落しました。「安くなったから買い増すチャンス」と考え、当初の計画にない追加購入をしました。
これは完全に間違いでした。なぜなら、個別株の配分を事前に決めていなかったからです。投資信託は厳密に配分を決めているのに、個別株は「なんとなく」買い増していました。
結果、Lyftの保有比率が個別株ポートフォリオの中で不自然に大きくなり、他の銘柄とのバランスが崩れました。
学び:個別株にも配分ルールが必要
現在は、個別株ポートフォリオ内でも各銘柄の「目標配分範囲」を設定しています。NVIDIAは20%、という具合に。この範囲を超える買い増しはしません。
失敗3:REITの配当金を現金で受け取っていた
最初の2年間、REITの配当金を現金で受け取り、そのまま銀行口座に貯めていました。「いつか使うかもしれない」と思っていたのです。
でも、実際には使いませんでした。銀行口座に眠ったままでした。これは機会損失です。
学び:すべての配当金は自動再投資
現在は、すべての配当金を「株式数比例配分方式」で受け取り、自動的に再投資する設定にしています。配当金が証券口座に入金されたら、スプレッドシートで「今月はどの銘柄を買うべきか」が自動表示され、その通りに注文を入れるだけです。
失敗4:米国個別株の為替リスクを無視していた
ドル建て資産(米国個別株)が2000万円あるのに、為替ヘッジを全く考えていませんでした。
2022年、円安が急速に進みました(1ドル150円超)。私の米国株は円換算で大きく評価益が出ましたが、これは「企業の成長」ではなく「為替の変動」によるものでした。
逆に円高に振れれば、企業業績が好調でも円換算では損失になります。
学び:通貨分散を意識する
現在は、投資信託の中で「日本株(SMT日本好配当)」「国内REIT」を合計15.3%保有することで、円資産を確保しています。また、債券ETFも「米ドル建て」なので、実質的に為替ヘッジの役割を果たしています。
完璧な為替ヘッジは計算が複雑すぎて無理ですが、「全資産が同じ通貨に偏らない」という原則は守れています。
まとめ:障がいは投資哲学を研ぎ澄ます
計算ができない。 財務諸表が読めない。 数字を覚えられない。
これらは確かに「不利な条件」です。しかし、不利だからこそ、私は本質的な問いに向き合わざるを得ませんでした。
「なぜこの資産を持つのか?」 「この銘柄は10年後も価値があるか?」 「自分は何を信じているのか?」
数字で判断できないからこそ、理念で判断する。計算できないからこそ、システムを構築する。記憶できないからこそ、記録を自動化する。
私の資産3400万円は、こうした「できないことへの工夫」の積み重ねです。
投資信託11万8000円の配分は、市場リスクを構成要素に分解し、それぞれに適切な割合を割り当てた結果です。米国個別株9銘柄は、「テクノロジーが人間の能力を拡張する未来」という信念を具体化したものです。
障がいは、私から「数字という杖」を奪いました。でも同時に、「なぜ投資をするのか」という哲学を与えてくれました。
あなたにも、あなたなりの投資哲学があるはずです。それは、他の誰とも違う、あなただけのものです。
計算が苦手なら、計算させなければいい。 理解できないなら、理解できる範囲で判断すればいい。 記憶できないなら、システムに記憶させればいい。
大切なのは、「自分にできること」で投資を組み立てることです。
私が証明しました。次はあなたの番です。








