「レシピ通りに作れない」あなたへ

「適量って、何グラムなの?」

レシピ本を開いた瞬間、フリーズした経験はありませんか?

私はあります。何度も、何度も。

「塩少々」「醤油適量」「好みで調整」——これらの曖昧な表現を見るたびに、頭の中が真っ白になりました。料理番組で「目分量でOKです♪」なんて言われた日には、テレビに向かって「いや、その目分量を教えてくれ!」と叫びたくなったものです。

結論から言います。

計量が苦手なら、計量しなくていい。「適量」が分からないなら、自分だけの「固定値」を作ればいい。

私は現在、自閉スペクトラム症(ASD)と限局性学習症(SLD)という2つの障がいを持っています。特にSLDの影響で、暗算や計算が極端に苦手です。38歳の今でも、スーパーで「3割引」と書かれた値札を見て、いくらになるか即座に計算することができません。

でも、そんな私でも毎日家族のために料理を作っています。妻と子供がいる3人家族。「パパのご飯おいしい」と言ってもらえる日もあります(たまにですが)。

この記事では、計算が苦手な人間が編み出した「数字を使わないキッチン革命」をお伝えします。同じように悩んでいる方の、明日のキッチンが少しでも楽になりますように。


見出し1:私の「キッチン崩壊」体験談——なぜレシピ通りにできないのか

27歳で知った「できない理由」

私が自分の障がいに気づいたのは27歳の時でした。

それまでの人生、料理は「苦手なこと」の筆頭でした。でも当時は、自分がなぜできないのか分かっていなかった。

  • レシピに「大さじ2」と書いてあっても、計量スプーンのどれが大さじか分からない
  • 「中火で5分」と言われても、時間の感覚が掴めない
  • 複数の調味料を同時に計算しようとすると、頭がパンクする

「なんでこんな簡単なことができないんだ」

何度も自分を責めました。

ある日、カレーを作ろうとしたときのこと。ルーの箱に書いてある「水850ml」という数字を見て、私は固まりました。計量カップには200mlずつの目盛り。850mlにするには何杯必要?

200 × 4 = 800。あと50ml。でも50mlってどこの線?

考えているうちに、すでに鍋に入れた具材が焦げ始めていました。

結局その日のカレーは、焦げ臭い失敗作になりました。

「適量」という言葉のトラウマ

SLD(限局性学習症)の中でも、私は特に算数障害(ディスカリキュリア)の傾向が強いタイプです。

【用語解説:ディスカリキュリア】 数の概念や計算処理に困難を抱える学習障害の一種。知的能力には問題がなくても、数字を扱う作業が極端に苦手になる特性です。

この特性があると、料理における「計量」が地獄になります。

特に困るのが、レシピに頻出する曖昧な表現たち:

曖昧な表現私の脳内
適量どれくらい?数字で言って?
少々少々って何グラム?0.1g?1g?
ひとつまみ指何本で?どのくらいの力で?
好みで私の好みが分からないから聞いてるんだけど…

ASD的な特性も相まって、曖昧な指示に対する不安が強いんです。「正解」が分からないと動けない。かといって、いちいち調べていたら料理が進まない。

このジレンマに、長年苦しんできました。


数字を使わない「キッチン革命」——私の解決策

解決策①:「固定化」という魔法

答えは意外とシンプルでした。

「適量」が分からないなら、自分の中で「固定値」を決めてしまえばいい。

私が実際に使っている「りゅうぞう式・固定化ルール」をご紹介します:

【調味料の固定化リスト】

  • 「少々」→ 3振り(塩・胡椒など振りかけるタイプ)
  • 「適量」→ 大さじ1(液体調味料の場合)
  • 「ひとつまみ」→ 親指・人差し指・中指の3本でつまむ
  • 「好みで」→ とりあえず入れない

この「固定化」のポイントは、正解を求めないことです。

完璧な味を目指すのではなく、「毎回同じ味」を目指す。再現性があれば、それでいいんです。

解決策②:計量しない調理器具の活用

ここからが本題、テクノロジーとアイテムの力を借りる方法です。

【おすすめアイテム①】ワンプッシュ調味料ボトル

100円ショップで売っている、押すと一定量が出てくるボトル。これに醤油や酢を入れておけば、「3プッシュ」のように回数で計量できます。

  • メリット:数字を使わず「回数」で管理できる
  • デメリット:中身が減ると出る量が変わることがある

私は「1プッシュ=小さじ1」として計算しています(実際の量は少し違うかもしれませんが、誤差は気にしません)。

【おすすめアイテム②】デジタルスケール(音声読み上げ機能付き)

計量カップの目盛りが読めない私にとって、デジタルスケールは革命的でした。

特におすすめなのが、音声読み上げ機能付きのタイプ

Amazonで約3,000円〜5,000円程度で購入できます。「はかりに乗せるだけ」で勝手に数字を読み上げてくれるので、目盛りを読む必要がありません。

【おすすめアイテム③】タイマー付きコンロ(または後付けタイマー)

「中火で5分」の5分を計るのが苦手な人に。

最近のガスコンロやIHには、タイマー機能が標準搭載されているものが多いです。設定した時間で自動消火してくれるので、時間を「体感」で測る必要がなくなります

後付けのキッチンタイマーを使う場合は、マグネット式で冷蔵庫に貼れるタイプがおすすめ。置き場所を固定すると探す手間が省けます。

解決策③:レシピを「自分用に翻訳」する

これは少し手間がかかりますが、効果は絶大です。

レシピ本の指示を、自分が理解できる言葉に書き換えるのです。

たとえば、こんな風に:

【元のレシピ】

「玉ねぎをみじん切りにし、油適量で炒める。塩少々を振り、しんなりするまで中火で加熱」

【りゅうぞう訳】

「玉ねぎを小さく切る(大きさはバラバラでOK)。油は大さじ1。塩は3振り。タイマー5分セット」

ポイントは3つ:

  1. 曖昧な表現をすべて数字に置き換える
  2. 「しんなりするまで」など状態を表す言葉は「時間」に変換
  3. 完璧じゃなくてもOKと注釈を入れる

この「翻訳作業」をしたレシピをスマホのメモに保存しておけば、何度でも同じ料理が作れます。


最新テクノロジーで「計算苦手」を克服する

2024-2025年注目のキッチンテック

【注目】自動調理鍋の進化

ホットクックなどの自動調理鍋は、SLDを持つ方にとって救世主的存在です。

  • 材料を入れてボタンを押すだけ
  • 火加減も時間も機械任せ
  • 「適量」の判断が不要なレシピが公式で公開されている

私も2年前にホットクックを導入してから、キッチンでのストレスが激減しました。価格は約40,000円〜60,000円とやや高額ですが、「料理のハードルが下がる」という価値を考えると、十分元が取れています。


【コラム:障がい者の「合理的配慮」は自分で作れる】

リハビリ職の方に向けて少しマニアックな話を。

私がキッチンで行っている工夫は、「環境調整」と「代償手段」の組み合わせです。これは作業療法(OT)の考え方そのものですよね。

  • 環境調整:計量しやすい道具を揃える、レシピを翻訳しておく
  • 代償手段:数字ではなく「回数」や「時間」で管理する

発達障害のある成人に対するADL支援では、「できない部分を補う」のではなく「できる方法を一緒に見つける」視点が大切だと感じています。

当事者として言えるのは、「あなたに合った方法がきっとある」と信じてくれる支援者がいるだけで、挑戦する勇気が湧いてくるということ。どうか、目の前の患者さんやクライアントの「できない」を一緒に攻略してあげてください。


まとめ:「できない」を認めたら、料理が楽しくなった

最後にお伝えしたいことがあります。

私は27歳で診断を受けるまで、「できない自分」を認められませんでした。料理ができないのは努力不足だと思っていたし、レシピ通りにできない自分を責め続けていました。

でも、障がいがあると分かってから、「できない前提」で工夫することを覚えました

  • 計量が苦手なら、計量しなくていい方法を探す
  • 曖昧な表現が苦手なら、自分で「固定値」を決める
  • それでもダメなら、機械に頼る

これは「逃げ」ではありません。「戦略」です。

私には計算ができないというハンデがあります。でもその私が、3400万円の資産を築けたのも、毎日家族のために料理を作れているのも、「できない」を受け入れて工夫することを学んだからです。

あなたが今、キッチンで困っているなら。レシピの「適量」でパニックになっているなら。

大丈夫、あなたは一人じゃない。

明日から使える「固定化ルール」を一つ決めてみてください。それだけで、キッチンが少しだけ優しい場所になりますから。


今日からできる3つのアクション

  1. 「少々」は3振りと決める(今日から使えます)
  2. ワンプッシュボトルを100円ショップで買う(次の買い物で)
  3. お気に入りのレシピを1つ「自分用に翻訳」する(週末にでも)

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

不器用な私ですが、これからも「暮らしの攻略本」を一緒に作っていけたら嬉しいです。

どうぞ、ゆっくりしていってくださいね。