キッチンに計量カップはいらない:SLD当事者が見つけた「測らない・数えない」料理革命

「大さじ1って、どのくらい?」という永遠の謎
「大さじ1、小さじ2、水200cc…」
料理本を開くたびに、私は途方に暮れていました。
こんにちは、りゅうぞうです。38歳、妻と子供の3人家族。そして、ASD(自閉スペクトラム症)とSLD(限局性学習症)を持つ当事者です。
結論から言います。
計量カップ、捨てました。というか、もう使っていません。
「えっ、料理できなくなるんじゃ…?」
いいえ、むしろ逆です。計量をやめてから、料理が楽しくなりました。
私のSLDは、特に「計算」と「書字」に困難があります。暗算?無理です。レシピの「1と1/2カップ」?頭がフリーズします。200ccと200mlが同じことすら、恥ずかしながら30歳過ぎてから知りました。
でもね、気づいたんです。
「測れないなら、測らなくていい仕組みを作ればいい」と。
今日は、計算が絶望的に苦手な私が、どうやって「文明の利器」を味方につけて、毎日の料理を乗り越えているかをお話しします。同じように「数字」に苦しんでいる方、そして私たちの生活を支えてくれているご家族に、少しでも希望を届けられたら嬉しいです。
1:私の「計量地獄」体験談 ― 失敗の連続から学んだこと
味噌汁が「海水」になった日
忘れもしません。結婚して間もない頃のことです。
「今日は味噌汁を作ろう」と張り切った私。レシピには「味噌 大さじ2」と書いてありました。
大さじ。たいさじ。TAISAJI。
計量スプーンは持っていました。でも、どれが「大」でどれが「小」かわからない。形も似てる。数字も書いてあるけど、咄嗟に判断できない。
「まあ、このくらいだろう」
適当にすくって入れました。
結果、塩分濃度が海水レベルの味噌汁が完成。
妻は一口飲んで、静かに水を飲みに行きました。何も言わなかったけど、あの沈黙は今でも忘れられません。
「普通」ができない自分への絶望
こういう失敗が、積み重なっていきました。
- 砂糖と塩を間違える(見た目が似すぎている)
- 「3カップ」を「3回」と勘違いして、材料が3倍に
- 調味料の分量を覚えられず、毎回レシピを見るも数字が頭に入らない
「なんでこんな簡単なことができないんだ」
自分を責めました。
でも、27歳でSLDの診断を受けてから、少しずつ考え方が変わりました。
「できない」を「やり方を変える」に置き換えていい。
それが、私の料理革命の始まりでした。
2:計量カップを捨てた私が出会った「神アイテム」たち
ここからは、実際に私が使っている「測らない」ためのアイテムとテクノロジーを紹介します。
お金はかかります。正直に言います。でも、毎日のストレスから解放される価値を考えたら、十分すぎる投資でした。
① 1プッシュで定量が出る「オイルディスペンサー」
商品例:ニトリ「プッシュ式オイル差し」(約600円)
これ、本当に革命でした。
1プッシュで約5ml(小さじ1程度)の油が出ます。「大さじ1の油」が必要なら、3回プッシュすればいい。
数字は苦手でも、「3回押す」なら指で数えられる。
私にとって、これは単なる便利グッズではありません。「数」を「動作の回数」に変換してくれる翻訳機なんです。
使い方のコツ
- 油だけでなく、醤油・みりん用にも複数用意する
- ボトルに大きく「しょうゆ」「あぶら」とラベルを貼る(漢字より平仮名が瞬時に認識しやすい)
- 詰め替え時は必ず同じ種類を入れる(混乱防止)
デメリット
- 粘度の高い調味料(ソース、マヨネーズ等)には使えない
- 定期的な洗浄が必要(油が酸化するため)
- 最初に「1プッシュ=何ml」を確認する手間がある(これは妻に頼みました)
② 計量不要の「調味料ポーション」
商品例:味の素「ほんだし® スティック」(8g×7本入り、約200円)
1本で味噌汁4杯分。開けて入れるだけ。
「どのくらい入れるか」を考える必要がゼロになります。
ポーションタイプの調味料は、SLD当事者にとって本当にありがたい存在です。
他にも私が愛用しているのは:
- キッコーマン「いつでも新鮮 しぼりたて生しょうゆ」(ボトルを押す力で量を調整できる)
- 味噌パック(1食分ずつ個包装されたもの)
- 鶏ガラスープの素(スティックタイプ)
実際の使用感
最初は「割高じゃない?」と思いました。確かに、グラム単価で見れば普通の袋入りより高いです。
でも、失敗して食材を無駄にするコストを考えたら? 毎回の「これで合ってる?」というストレスを考えたら?
私にとっては、「安心料」込みの適正価格です。
③ 最強の味方「ホットクック」への投資
商品:シャープ「ヘルシオ ホットクック」KN-HW24G(約50,000円)
これは、もう別格です。私の料理生活を根本から変えてくれました。
ホットクックとは、「水なし自動調理鍋」です。材料を入れてボタンを押すだけで、煮物やカレー、スープなどが完成します。
なぜSLD当事者に最適なのか
- レシピが「材料を入れる順番」で指示される → 分量ではなく「手順」で覚えられる
- 公式レシピの分量が「人数分」で固定されている → 「4人分」なら、書いてある材料をそのまま入れればいい
- 調理中に火加減を調整する必要がない → マルチタスクが苦手なASD特性にもフィット
- 失敗しにくい → 自己肯定感が下がらない(これ、本当に大事)
私の使い方
我が家では、週に4〜5回はホットクックが稼働しています。
定番メニューは:
- 無水カレー(野菜を切って入れるだけ)
- 肉じゃが(調味料はポーションを使用)
- 鶏ハム(放置するだけでしっとり仕上がる)
特に「無水調理」は、水を計量する必要がないので本当に助かります。
デメリット
- 初期費用が高い(約50,000円)
- 場所を取る(炊飯器くらいのサイズ)
- 「炒める」「焼く」は苦手(煮込み料理が得意)
- 最初はメニュー選びに迷う
でも、私は毎月少しずつ積み立てて購入しました。
「計算が苦手なのに積み立て?」と思いますよね。
実は、私は3,400万円の資産を持っています。そのうち90%が株式です。
「計算できないのに投資?」
はい。計算は苦手でも、「仕組み」を作ることはできるんです。自動積立を設定すれば、数字と向き合う必要はありません。これについては、また別の記事で詳しくお話ししますね。
SLD×料理の「認知科学」的アプローチ
ここからは少しマニアックな話をさせてください。支援職の方にも読んでいただきたい内容です。
SLD(限局性学習症)の「計算困難」は、単に「算数ができない」ということではありません。
ワーキングメモリ(作業記憶)への負荷が高い状態で情報処理をしなければならない、という特性があります。
料理という作業は、実は非常に高度な認知処理を要します。
- 複数の材料の分量を記憶する
- 時間を管理する(〇分煮る、△分蒸らす)
- 並行して複数の作業をこなす
- 完成イメージを頭の中で保持する
定型発達の方が「なんとなく」でできることが、SLD当事者には「全力で集中しないとできないこと」になります。
だからこそ、「ワーキングメモリを使わない仕組み」を作ることが重要なのです。
| 従来の方法 | SLD対応の方法 | 認知負荷 |
|---|---|---|
| 計量カップで測る | プッシュ式ディスペンサー | 低 |
| 分量を暗記する | ポーション調味料を使う | 低 |
| 火加減を調整する | 自動調理器に任せる | 極低 |
| レシピを読みながら作る | 材料を先に全部出しておく | 中 |
この「外部化(エクスターナライゼーション)」という考え方は、SLD支援の現場でも注目されています。
「できないことを頑張る」のではなく、「できなくていい環境を作る」。
これは、怠けではありません。合理的配慮の自己実践です。
「助けて」と言えるようになるまで
ここまで、便利なアイテムやテクノロジーを紹介してきました。
でも、正直に言います。
道具だけでは、解決しないこともあります。
妻への「告白」
ホットクックを買う前、私は妻にこう言いました。
「俺、本当に計量ができないんだ。大さじとか小さじとか、何回やっても間違える。馬鹿みたいだけど、本当に苦手なんだ」
27歳で診断を受けてから、10年。
障がいがあることは伝えていました。でも、「具体的に何ができないか」を言葉にするのは、ずっと避けてきました。
恥ずかしかったんです。
「いい大人が、大さじ小さじもわからないなんて」
でも、妻は言いました。
「知ってるよ。だから私、調味料を量る時はいつも横にいたでしょ?」
泣きました。
私が必死に隠していたことを、妻はとっくに気づいていて、そっとフォローしてくれていたんです。
「できない」を認めることで、楽になる
あの日から、私は変わりました。
「計量、お願いしていい?」 「この数字、読んでくれる?」 「ホットクック、買いたいんだけど」
「助けて」と言えるようになりました。
道具を揃えることも大事です。でも、周囲に「自分の苦手」を伝えることも、同じくらい大事なんだと思います。
一人で抱え込まなくていい。
あなたがもし、まだ誰にも言えていないなら。
大丈夫。言える日は、きっと来ます。私も、10年かかりました。
「測れなくても、生きていける」という希望
大切なこと
- 「測れない」は「工夫できない」ではない
- 道具への投資は、自分への投資
- 「助けて」と言える環境を作ることも、立派な解決策
- 完璧を目指さなくていい。「できた」を積み重ねよう
最後に:あなたへのメッセージ
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
もしかしたら、あなたは今、こう思っているかもしれません。
「でも、そんなにお金かけられないし…」 「うちの家族は理解してくれないかも…」 「結局、自分には無理なんじゃ…」
わかります。
私も、何度もそう思いました。
ホットクックを買う前、妻に相談する前、「どうせ自分には無理だ」と諦めかけていた時期がありました。
でもね、一つだけ覚えておいてほしいことがあります。
「できない自分」を責める必要はない。
私たちは、脳の特性として「計算が苦手」なだけです。努力が足りないわけでも、怠けているわけでもない。
右利きの人に「左手で字を書け」と言っても、すぐにはできませんよね?でも、左利き用のハサミがあれば、左利きの人も快適に切れる。
私たちに必要なのは、「自分に合った道具」と「自分に合ったやり方」です。
小さな一歩から始めよう
いきなりホットクックを買う必要はありません。
まずは、こんなところから始めてみてください。
今日からできる3つのこと:
- 100円ショップで「プッシュ式ボトル」を1つ買ってみる
- 普段使っている調味料の「ポーションタイプ」がないか探してみる
- 家族や信頼できる人に「実は〇〇が苦手なんだ」と一つだけ伝えてみる
どれか一つでいいんです。
一つできたら、自分を褒めてください。
「今日、一つできた」
その積み重ねが、人生を変えていきます。
計算が苦手でも、人生は「攻略」できる
最後に、少しだけ希望の話をさせてください。
冒頭でも触れましたが、私は現在、約3,400万円の資産を持っています。その90%が株式投資です。
「計算ができないのに、投資なんてできるの?」
よく聞かれます。
答えは、「できます」。
なぜなら、投資に必要なのは「暗算力」ではなく「仕組みを作る力」だからです。
- 毎月の積立額を「自動設定」する
- 複雑な計算は「アプリ」に任せる
- 判断に迷ったら「ルール」に従う
料理と同じです。
「自分でやらなくていい仕組み」を作れば、苦手なことも乗り越えられる。
これが、私がこのブログで伝えたい「暮らしの攻略本」の根幹です。
お金の話は、また別の記事で詳しく書きますね。
あなたは、一人じゃない
このブログを読んでくれているあなた。
診断を受けたばかりで戸惑っている方。 診断はまだだけど、「自分もそうかも」と感じている方。 大切な人がSLDやASDで、どう支えればいいかわからない方。
あなたは、一人じゃありません。
私も、かつては「暗闘の中で手探りをしている」ような毎日でした。
でも今は、妻と子供と、少しずつ「自分らしい暮らし」を築けています。完璧じゃないけど、それでいいんです。
不器用な私の失敗談や工夫が、あなたの「小さな光」になれたら、こんなに嬉しいことはありません。








